はじめに
(本書は、2001年にダイヤモンド社から刊行された『「分かりやすい英文」の技術』を文庫化して、改題したものです。)
本書は、日本の学校教育で欠落している英語文章術を教えます。学校で教わった近視眼的な「英文法」や「英作文」の知識を総動員しても、個々の英文を文法的に正しく書き上げることで精一杯ではないでしょうか? 文法的には正しいにもかかわらず、自分の書いた英文の不自然さになんとなく不満を持つ読者もいるでしょう。あるいは、ネイティヴの読み手に自分の英文Eメールを誤解された苦い経験を持つ読者も多いのではないでしょうか。
そこで本書では、そのような読者のために、小説など文芸作品の英文ではなく、仕事の実務に必要な「意図を誤解なく確実に伝える英文」を書くための基本ルールを紹介します。基本ルールは簡単なことばかりなので、短時間でそのノウハウを身につけることができます。ここでは、TOEICの点数上昇に裏付けられるような、時間のかかる英語力そのものの向上は必要ありません。この本を一読するだけで、短期間に英文表現力を向上させることができるのです。今までゼロに等しかった英文批判力、英文鑑識眼が身につくからです。
昔なら、英文で情報発信できる人は、商社の社員、あるいは、メーカーの貿易部門、あるいは、英語論文を発表する人、というように限られた専門家でした。例えば、仕事の現場なら、英語の専門家が"Sincerely
yours,"で終わるような商業定型英文レターを書き、署名し、封筒に入れ、切手を貼って海外に送っていたわけです。こうした固い英文レターでは、英語の専門家に頼らざるを得ない状況だったわけです。
ところがインターネットの普及により状況は一変しました。突然「書く英語」が私たちにも身近なものとなりました。従来、言葉の壁に起因する日本の情報発進力の弱さは日本の国益を損ねていました。昔は、言葉の壁と言えば、日本人の英会話力の貧弱さだけが論点でした。しかし、インターネットの出現に伴い、日本から世界に向けての発言は「話す英語」だけではなくEメール、ホームページ等「書く英語」にも比重が移ってきたのです。
しかし、こうした状況にも拘わらず、私たちの周囲の一般書は、あいも変わらず、英会話用が多数派です。日本人が「カッコイイ」英会話好きなためでしょう。そのため、一般人向けの英文表現術の本が不足しているのです。僅かに存在している英文ライティングの本でも、ほとんどが科学技術分野の専門家向けの本か、あるいは、単なるビジネス例文集ばかりです。英文表現術の本質に迫る入門書がありませんでした。そこで、英文表現術の基礎ルールを一般の人に広く紹介するために本書を執筆することとしました。
さて、それでも英会話に強い関心のある読者に知って欲しいことがあります。書く英語の実力を磨くことは、あなたの英会話力をも伸ばします。特に、本書が教える「実務英文で効率よく確実に自分の意図を伝える技法」を学ぶことは確実にあなたの英会話力をも向上させます。
英語は、元々「話し言葉」と「書き言葉」との差が日本語ほど大きくない言語です。さらに、従来の封書による固い商業英文などと違い、英文Eメールでは、会話調表現が多用されることも、その傾向に拍車をかけています。つまり「書く英語」で「話す英語」の練習ができるのです。「書く英語」で、自分の言いたいことがズバリ、効率よく表現できるようになることは、知らず知らずのうちにそのままあなたの英会話表現力をも伸ばすのです。「書く英語でペラペラ」になれば、あなたの最終目標地点である「話す英語でペラペラ」も目前です。
本書によって、多くのビジネスマンの方々が、日本の英語教育で欠落していた英文表現術を身につける第一歩を踏み出すことを期待しています。そのことで、日本の世界に対する発言力、情報発信力が少しでも高まれば、これ以上の喜びはありません。
2004年5月
目次
★第1章 心構え編
ルール1 読み手はお客様である!
ルール2 成果を狙え!
ルール3 まず要点を述べよ!
ルール4 読み手の視点で書け!
ルール5 生産的に書け!
★第2章 基礎技術編
ルール6 長い文は分割せよ!
ルール7 なるべく短い表現で書け!
ルール8 冗長を排除せよ!
ルール9 修飾語は近くに置け!
ルール10 なるべく能動態で書け!
ルール11 なるべく肯定文で書け!
ルール12 数に敏感になれ!
ルール13 代名詞は慎重に使え!
ルール14 一貫性を守れ!
ルール15 自然な順序で書け!
ルール16 パラグラフで構成せよ!
ルール17 トピック・センテンスを使え!
ルール18 強い動詞を使え!
ルール19 具体的な情報を書け!
ルール20 略語は慎重に使え!
★第3章 上級編
ルール21 曖昧語は避けよ!
ルール22 thatとwhichを区別せよ!
ルール23 並列項目は同一形式で書け!
ルール24 隠れた主語に注意せよ!
ルール25 正確に表現せよ!
ルール26 末尾も特等席と思え!
ルール27 単文の羅列を避けよ!
ルール28 句読点は正しく使え!